【阪本研究所】 SK laboratory 代表 Kazuyoshi Sakamoto

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コールダー・ウォー: ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争 マリン カツサ (著), Marin Katusa (原著), 渡辺 惣樹 (翻訳)

THE COLDER WAR


2015年に発刊された本ではありますが、今一度読んでみました。特に5章の「ウクライナ」のところは、現在のロシアとウクライナとの紛争を理解する上で非常に役立つ内容です。


この本の内容を最もよく表しているのはP122「繰り返す歴史」のところで、


ロシアの戦いの武器はもはや戦闘機や戦車ではない。それは石油、天然ガス、ウランであり、それを利用可能にする精製設備、パイプラインそして港湾設備などのインフラストラクチャーである。


と、プーチン氏の動きを考える上で、ここが最も重要な認識ではないでしょうか。




YouTube「そうきチャンネル」 でTHE COLDER WAR(コールダー・ウォー)の書籍について言及されております👇





ペトロダラーシステム


さて、東西冷戦をはるかに超えた熾烈な戦いが始まっています。


プーチン氏は膨大なエネルギー資源を武器に、アメリカ覇権の核心たる【ペトロダラーシステム】(ドルベースの資源取引)を打ち砕き、大ロシア帝国を再興するべく世界各地で着々と歩を進めています。


ヨーロッパ各国は半ばプーチン氏の軍門に下り、アメリカの敗色も濃厚かもしれません。
(この本が出版された2015年頃の状況。今のウクライナ紛争のことではありません。)


この劣勢は挽回できるるのでしょうか。日本は一蓮托生の日本は、アメリカと共に沈むのでしょうか。


資源開発現場で得た最新情報をもとに、世界激震の背後にあるプーチン氏のしたたかな資源戦略を洞察した本です。


「ペトロダラーシステム」は、サウジなど親米アラブ国家がドル以外の通貨で石油を売らないもので、石油需要が続く限りはいくら過剰発行してもドルは安泰という米国にとって都合がよいシステム。


ドルが勝手にぐるぐると増え続けるサイクル





ニクソン大統領が、サウジアラビアとの交渉で、石油購入をドル決済に変えたことで
作り上げた「ペトロダラーシステム」。


海外送金をするときに必ず必要なSWIFT。ドルと金のリンクから、ドルと石油のリンクにかわり、その国際決済がドルを構造的に支えています。


この本では、プーチンが、アメリカのドル覇権を資源戦争を通じて、崩壊させようとしている様が鮮明に見えてきます。




この本の内容

第1章 失われた十年の終わり
失われた十年/モスクワデビュー/アパート爆破事件/第二次チェチェン戦争/プーチンの実権掌握


第2章 新興財閥(オリガリヒ)との戦い
共産主義体制崩壊で生まれたビジネスチャンス/ミハイル・ホドルコフキー追い落とし/株式引換券(バウチャー)の買い占め/ユコスの手法/プーチンからの提案/鉄槌/死屍累々/誰もが気づいたプーチンの思惑/生き残った男たちの栄華/プーチンのグランドデザイン


第3章 グレートゲームと新冷戦
最初の一滴/パイオニア/巨大化/石油、戦争そして平和/貨幣の歴史とドル支配工作/誰にも必要とされるドル/トリック


第4章 スラブ戦士プーチンの登場
幼少期/青年期/スパイ時代/グルジア問題 その一/グルジア問題 その二


第5章 ウクライナ問題
プーチンのウクライナ観/天然ガスパイプライン問題/セヴァストポルおよびクリミア半島/ロシアの安全保障/緩衝国/ソビエト崩壊後の対ウクライナ外交/選挙/マイダン改革分析/クリミアはロシアに還る/【ウクライナのエネルギー資源事情/炭層メタンガス(coal bed methane:CBM)】


第6章 プーチン分析
ユーラシアユニオン構想の狙い/繰り返す歴史


第7章 プーチンの石油戦略
北極圏石油開発/ヨーロッパ石油事情/ロスネフチ社/OPECへの気配り/石油パイプライン敷設


第8章 天然ガス戦略
新パイプライン建設/LNG(液化天然ガス)戦略/ヨーロッパ事情/ガスプロム社/アフリカ戦略


第9章 ウラン戦略
長期的に不足するウラン資源/ウランの基礎知識/供給量不足を補う暫定的要因/プーチンのウラン戦略/ウラン鉱山囲い込み/モンゴルにおけるウラン開発/最終目標/ウラン市場の短期的ダブつき傾向


第10章 対中東戦略


第11章 黄昏のペトロダラーシステム


第12章 ペトロダラーシステム崩壊後の世界



ウクライナ紛争とネオコン


ウクライナへの2022年時点での侵攻をプーチン氏が計画していたかどうかは不明ですが、アメリカのネオコンが相当なプレッシャーをプーチン氏にかけていたのは本当かもしれません。


その結果、プーチン氏がウクライナに侵攻することをバイデン氏は「知っていた」。


ここで、バイデン氏はプーチンを潰さないとアメリカ(ドル)に未来はないと悟ったのでしょう。


そこまでアメリカを追い詰めていたプーチンの戦略がよくわかる本になっています。


アメリカは、今ならまだプーチンを倒せると思ったのでしょうが、プーチンはさらにその上を行くかもしれません。


ロシアは石油もガスもウランも持っています。世界中で自給自足が可能な唯一の国。これら天然資源が金融システムの根幹をも成し、貨幣さえもコントロールできる事をプーチン氏は熟知しています。


プーチン氏は冷徹だが賢い人。観察力が鋭く我慢強い。彼はロシア国民とロシアの富であり国民の財産である資源を守ろうとします。彼の立ち位置は明確で、ある意味ブレない人。


また、サウジ、中国、ブラジルなどいわるるBRICSはアメリカに味方することはないでしょう。


(BRICs(ブリックス、英語 Brazil, Russia, India, China から)は、2000年代以降に著しい経済発展を遂げた4か国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の総称)




このような世界状況で、日本はアメリカにどこまでついて行くのか。今の首相や日本の政治家に期待することは酷かもしれません。




ペトロダラーシステムについてもっと詳しく


このシステムは、産油国が原油の売却代金をドルで受け取り、それを西側の金融/投機市場へ還流させるという資金の流れを指しています。


ワシントン・リヤド密約

1974年、財政赤字とドル防衛が問題化していたアメリカ合衆国のリチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国務長官が、サウジアラビアを訪問してファイサル国王やファハド・ビン=アブドゥルアズィーズ第二副首相兼内相との会談において、ドル建て決済で原油を安定的に供給することと引き換えに安全保障を提供する協定ワシントン・リヤド密約)を交わしました。







これにより、第4次中東戦争の禁輸で高値となっていた石油を輸出することが可能になり、多額のドルが流入するようになります。



しかし、使途が見つからなかった余剰資金が国際短期金融市場に流入することになりました。この頃から、国際金融界において突如現れた産油国資本へ注目が集まるようになりました。


オイルマネーの影響力低下

1970年代には高い原油価格を背景に膨張を続けます。しかしながら、1980年代に入ると先物市場の形成で、産油国による原油価格決定力が低下したため、原油価格は低迷しました。産油国の脱石油依存を狙った国内投資が増大したこともありオイルマネーの影響力は低下します。



 2004年以降、国際的な流動性過多から商品市場の価格高騰が起きました。原油先物市場に投機マネーが流入して、2008年7月11日には一時1バレル147.27ドルにまで高騰し、産油国は再び多額の輸出対価を得ることとなりました。


2014年に、石油相場を下落させていた主因の一つは、アメリカ政府の意向を受けてサウジアラビアが増産していたからです。



石油輸出への依存度が高いロシアを締め上げることが目的です。一連の「ロシア制裁」は、ロシアと中国とを接近させる引き金になっただけでなく、世界的なドル離れも後押しすることになった。
(これは、今のウクライナ紛争と同じ。世界各国がロシアに制裁を始めると中国がロシアに接近し仲良くなる。)




ロシアから中国へ固定価格で供給される大型契約


そうした動きの1つの結果が2014年5月に結ばれた天然ガスの供給契約。「西ルート(又は、アルタイ・ルート)」の施設を使い、ロシアから中国へ天然ガスが提供されることが明らかになりました。


前者は年間380億立方メートル、後者は年間300億立方メートルの天然ガスをロシアから中国へ固定価格で供給されるという大型契約。



アメリカの天然ガスや石油を採取する手法


世界のエネルギー源は、現在でも原油が中心。アメリカの産油量は、シェール(堆積岩の一種である頁岩)層から天然ガスや石油を採取する手法が中心です。


この手法は、フラッキング(水圧破砕)。まず、シェール層まで垂直に掘り下げ、層に到達したところで横へ掘り進み、「フラクチャリング液体」を流し込んで圧力をかけて、割れ目(フラクチャー)を作り、砂粒を滑り込ませてガスやオイルを継続的に回収するというもの。




このフラッキングは地震を誘発すると言われ、化学薬品を使うために環境汚染が問題になっています。





シェール・ガスやシェール・オイルの産出量は、急減する可能性があり、しかも、石油相場が下落すれば、コストの問題で、採掘可能量の減少に拍車がかかるとも言われています。




当分の間、サウジアラビアを始めとするペルシャ湾岸の産油国やロシアが石油の供給元になると見るべきででしょう。



すでにアメリカは生産活動の分野が崩壊して、社会システムは崩れ、「シェール・オイル幻想」も消えかかっています。危機的状況であるにもかかわらず、政治は「イスラエル・ファースト」のネオコンにコントロールされているのが実態かもしれません。




ネオコン

アメリカ合衆国における新保守主義(しんほしゅしゅぎ、英: Neoconservatism、ネオコンサバティズム, 略称:ネオコン)は、政治イデオロギーの1つで、自由主義や民主主義を重視してアメリカの国益や実益よりも思想と理想を優先し、武力介入も辞さない思想。1970年代以降に米国において民主党リベラル派から独自の発展をした。




ネオコンに関するブログ記事







とにかく読みやすい翻訳本




栄華を極めた大英帝国のポンド決済が、米国のドル決済へと移行していく歴史。そして、中国がロシアに接近し決済の上で仲良しになっていく。。
翻訳した著者の翻訳能力が素晴らしいのかもしれません。歴史教科書のようです。


小学生の高学年であれば理解できると思います。





「コールダー・ウォー」文庫本


ハードカバーの方が当然ながら文字が大きいので読みやすですが、文庫本版はコンパクトが故に持ち運びに便利。


個人的には何故か文庫版の方がよく理解できます。




第9章の「ウランの基礎知識」は分かり安い解説です。




また、特に「イエローケーキ」という言葉は知っておいて得する知識だと思います。




イエローケーキ


ウラン鉱石精製過程の濾過液から得られる、ウラン含量の高い粉末
イエローケーキは、ウラン鉱石精製の過程の濾過液から得られるウラン含量の高い粉末である。鉱石の種類により様々な製法が用いられるが、通常は鉱石を粉末状にし、化学処理して刺激臭を持つ粗粉末を作る。これは水に不溶で約80%の酸化ウランを含み、約2880℃で融解する。





文庫本なので「文庫本版 訳者あとがき」があります👇





渡辺先生が翻訳された「The Colder War」5章は、ウクライナ危機の予言の章とも言えます。必読です。




参考文献


「The Colder War(コールダー・ウォー)」の書籍にも参考文献があります。


『石油国家ロシアー知られざる資源強国の歴史と今後』鈴木博信(訳)日本経済新聞社 2010年



先にこの本を読めば「The Colder War」はもっと理解しやすいと思います。




著者:ゴールドマン,マーシャル・I.
1930年生まれ。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールを経て、ハーバード大学大学院でソ連経済の研究により博士号を得る。現在はハーバード大学ロシア・ユーラシア研究デイビス・センター終身特別研究教授。同大学経済学名誉教授。世界的なロシア経済、歴史、政治研究者であり、ゴルバチョフ、プーチン両氏とも面識がある。また両ブッシュ大統領のロシア政策アドバイザーを務めた